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アレ

  ▽19990617a #日記

 ところで,こないだから読んでた本を読み終わった. N.エルドリッジの「ウルトラ・ダーウィニスト達へ ~古生物学者から見た進化論」という本だ. どういう本かというと,内容が薄くて不明瞭なのでこれといった説明ができない(ぉ  なんしか,この本ってば読めば読むほどに, 某ccy氏の文章を彷彿とさせるのだ!(笑)

 んで,「ウルトラ・ダーウィニスト」ってのはエルドリッジの造語で, ダーウィニスト(自然選択による進化論を唱える学者)の中でも, 特に遺伝子間での淘汰を重視する一派をそう名づけたものだ. この一派の極左が,あたしの尊敬する R.ドーキンスなのだ.

 で,彼の言う「ウルトラダーウィニスト」達は, 「自然淘汰の基本的単位は遺伝子である. それどころか生物個体は基本的に遺伝子が自己複製するための乗り物に過ぎない」 という前提に立ち, そこから得られる論理的帰結として, 種淘汰の否定や軍拡競争理論などを研究するわけだ.  で,この理論は,人間の尊厳とかそういった面ではとても冷酷なものなんだけど, 非常に論理的で明快なので多くの科学者に受け入れられて, 今では進化論全体の前提のようになっている.

 さて,エルドリッジは「古生物学者」だ. 化石などの研究により,例えば三葉虫やらウマの祖先やらが, 時代によりどう変遷していったか,という視点から進化論を研究する. で,そうすると,例のウルトラダーウィニストの理論と, 違うんじゃねーの?っていう研究結果が出てくるのだ.

 さて,ここまでが前振りだ(笑)

 化石の観察の結果,彼らはウルトラダーウィニストが誤っているのではないか?という結論を得た. そこで,エルドリッジはこの本で主張したのだ. 「あんたら間違ってねーか?」と.そこで彼らは以下のような主張をしたのだ.

  • ウルトラダーウィニスト達の理論は間違ってる!
  • ウルトラダーウィニストは遺伝子とかの小さいものしか見てないから視野が狭いぞ.
  • だいたい遺伝子なんて小さいもの主導で自然淘汰なんて大きな事は起きそうにないだろ?
  • 古生物学者は数百万年単位の化石で種全体としての歴史を見てるんだ.
  • 小さなレベルでの遺伝子間の淘汰はもちろんあるだろうけど, もっと大きなレベルの淘汰(種淘汰)もあるに違いない!
  • あんな還元論に汚染された連中の言う事聞いてちゃ駄目だよ.
  • だからとにかくウルトラダーウィニストは間違ってるんだってば!

 うーん,もうちょっとエグい内容なんだけど, こうまとめると柔らかく見えるなぁ... さて,ポイントを説明しよう.

 まず,相手が間違ってると主張する割に, それに代わる理論を全く提出しない. 日常でゴハン何食べようか決めるとかなら, ちょっと気分でパスタは嫌だなぁとかもありかもしれんが, マジメに科学について論じてるのにこれでは, そもそも何か言う気があるのかどうかさえ疑うね. 最初に「遺伝子淘汰では種の進化は有り得ない」と主張して, ではどうすると種が進化するっていうんだろう,と思いながら読んでたら, 最後までそれが示されなかった!(笑)

 次に,上の例はほんの一例だが, 相手の視野が狭いとか近視眼とか言いたい放題に言って, 自分が相手よりレベルの高い人間であると印象づけようとする. お互いの理論が拮抗している状態だとしたら, どうして互いに違う理論を提出することになったのか, その違いはどこから来るのか, を説明するのには視野がどうとかの話も多少は有効かもしれないが, 「奴は間違ってる.奴はおれより視野が狭い」なんつってても, 単に相手を貶めて優越感を味わいたいだけにしか見えない.

 さらに.相手の意見を理解した事にして, 話題を別のレイヤにこっそり移してしまって,そっちで自説を主張する. 彼らがここで遺伝子淘汰を否定すると共に種淘汰を主張するのは, 話題のすりかえってものだ. まずその前になぜ遺伝子淘汰が否定されねばならないかを示すべきだし, そっちの議論が終わる前に種淘汰の主張に移ったはいいが, 種淘汰理論も不完全で説得力がないのだ. ちなみに,ウルトラダーウィニストは, なぜ遺伝子淘汰を前提にすると種淘汰が否定されるべきなのかを, すでに論理的に示している.

 さいご.とにかく相手をケナす. いあ,正確にはケナしてるんじゃなく, 励ましたり憐れんだりしてるのだ. 一見すると敵対していないように見えるが, これら全ては本来的に上位者が下位者に対して行なうことで, 要は自分達が上位にいるといいたいわけだ. 論理的に相手を説得することができないので, 理論でなく理論の主張者を格付けして, 理論の方も認めてもらおうという作戦だ.

 ...ほーらね,彷彿とさせるでしょ?(笑)

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